ベトナム人社員を採用したものの、文化の違いから「どう接すればいいかわからない」と悩む日本の職場が増えています。ちょっとした言葉の選び方や態度の違いが、モチベーションや定着率を大きく左右することも珍しくありません。文化的価値観を理解すれば、日常のコミュニケーションは驚くほどスムーズになるでしょう。そこで、この記事ではベトナム人社員と信頼関係を築くために職場で実践できるマナーとコミュニケーション術について解説します。

ベトナム人社員の接し方①:押さえるべき3つの文化的価値観

コミュニケーション術を実践する前に、ベトナム人の行動の根底にある文化的価値観を押さえておくことが大切です。「なぜそのように行動するのか」を理解しておくだけで、日々のやりとりの見え方が大きく変わるでしょう。ベトナム人の国民性の全体像については「 ベトナム人の特徴とは?性格・国民性を地域別に解説 」の記事でも詳しく紹介しています。

「メンツ(体面)」はベトナム社会の最重要キーワード

ベトナム社会では、「メンツ」が人間関係を動かす最も重要な要素のひとつです。ベトナム語で「thể diện」と呼ばれるこの概念は、日本語の「面目」に近いものの、その重みは日本以上と考えていいでしょう。人前で恥をかかされることは、本人だけでなく家族の名誉にも関わる重大な問題として受け止められます。

そのため、ベトナム人社員が失敗を認めたがらなかったり、ミスを指摘されたときに強く反発したりする場面があっても、それは「メンツを守りたい」という文化的な反応である可能性が高いでしょう。この背景を知っているだけで、感情的な衝突を避けやすくなります。

年長者・上司への敬意が日本以上に強い

ベトナムは儒教の影響を強く受けた社会であり、年長者や目上の人への敬意が日常生活に深く根づいています。職場においても、上司の言葉には従うのが当然という意識を持つベトナム人は多いでしょう。一方で、上司に対して自分の意見を直接ぶつけることは「失礼にあたる」と感じる傾向も見られます。

そのため、会議の場で「何か意見はありますか」と聞いても、なかなか発言が出ないことも珍しくありません。これは無関心なのではなく、上司を立てるという文化的な配慮からくる行動です。意見を引き出したい場合は、個別に声をかけるなどの工夫が必要になるでしょう。

人間関係の「距離の近さ」は信頼の証

ベトナムでは、職場の同僚であっても家族のような親密な関係を築こうとする傾向があります。昼食を一緒にとる、プライベートな話をする、困ったときに助け合うといった行動は、ベトナム人にとって「信頼関係が築けている」ことの表れです。

日本では仕事とプライベートを分けることが一般的ですが、ベトナムではむしろ「仕事仲間=仲間」という意識が強いと考えていいでしょう。この感覚の違いを理解しておくと、ベトナム人社員からの距離の近い言動に戸惑うことが少なくなります。

ベトナム人社員の接し方②:職場で気をつけたいマナーとNG行動

文化的価値観を踏まえたうえで、職場で特に気をつけたいマナーとNG行動を確認しておきましょう。些細に見える行動が、ベトナム人社員との関係を大きく損ねてしまうこともあります。

人前での叱責・指摘は絶対に避ける

先述したメンツ文化と深く関わるのが、「人前での叱責」の問題です。日本の職場では、朝礼やミーティングの場で注意を促すことがありますが、ベトナム人社員にとってこれは非常に大きな屈辱となる場合があります。人前で恥をかかされたと感じた社員が、翌日から出勤しなくなるケースも少なくありません。

指摘や注意が必要な場合は、必ず個別の場を設けて行うことが大切です。その際も、頭ごなしに叱るのではなく、「こうすればもっと良くなる」というポジティブな伝え方を心がけると、相手も受け入れやすくなるでしょう。

曖昧な指示より「具体的なゴール」を伝える

日本語には「適当にやっておいて」「なるべく早めに」「いい感じにまとめて」といった曖昧な表現が多く存在します。日本人同士であれば空気を読んで対応できることも多いですが、ベトナム人社員にとってこうした指示は混乱のもとになりやすいでしょう。

とはいえ、これは言語能力の問題だけではありません。ベトナムでは上司が具体的な指示を出し、部下はそれを正確に実行するという働き方が一般的です。そのため、「何を」「いつまでに」「どのレベルで」仕上げるのかを明確に伝えるほうが、お互いにとってストレスの少ないコミュニケーションになります。完成イメージを写真やサンプルで見せてあげると、さらに効果的でしょう。

プライベートな質問は好意の表れと知っておく

「結婚していますか」「給料はいくらですか」「年齢はいくつですか」。日本では職場でこうした質問を投げかけることはマナー違反とされます。しかしながら、ベトナムではこれらの質問は相手に関心を持っていることの表れであり、親しみを込めたコミュニケーションの一環です。

だからと言って、日本人社員が同じように感じる必要はありません。大切なのは、ベトナム人社員がそうした質問をしてきたとき、「失礼な人だ」と決めつけるのではなく、文化的な背景を理解したうえで穏やかに対応することです。答えたくない場合は、笑顔で「日本ではあまり聞かないんですよ」と伝えれば十分でしょう。

ベトナム人社員の接し方③:信頼を深めるコミュニケーション術

NG行動を避けるだけでは、良好な関係は築けません。ここからは、ベトナム人社員との信頼を積極的に深めるためのコミュニケーション術を紹介します。

「ありがとう」「助かった」をこまめに言葉にする

ベトナム人社員のモチベーションを高めるうえで、感謝の言葉の効果は非常に大きいです。日本では「言わなくてもわかるだろう」という暗黙の了解が成立しやすい一方、ベトナムでは言葉にして伝えることが重視されます。

「ありがとう」「助かったよ」「よくやってくれたね」といった一言を日常的にかけるだけで、ベトナム人社員の仕事への意欲は目に見えて変わるでしょう。特に、人前で褒めることはメンツを立てることにもつながり、本人にとって大きな喜びとなります。叱るときは個別に、褒めるときはみんなの前で。これがベトナム人社員と接するうえでの基本原則と考えていいでしょう。ベトナム語で感謝を伝えたい場合は「 ベトナム語の特徴とは?コミュニケーションのコツを解説 」の記事で紹介しているフレーズも参考にしてみてください。

雑談・食事の誘いが関係構築の近道になる

ベトナムでは、食事を共にすることが人間関係を深める最も自然な方法のひとつです。職場の歓迎会や送別会だけでなく、日常的な昼食の誘いも関係構築に大きな効果を発揮するでしょう。ベトナム人をごちそうする際に何を選べばよいかについては「 ベトナム人の好物は?ごちそうするなら何がいい 」の記事を参考にしてみてください。

また、仕事の合間のちょっとした雑談も、ベトナム人社員にとっては「自分が受け入れられている」と感じる重要なきっかけになります。家族の話やベトナムの食文化について聞いてみるのもよいかもしれません。相手の文化に興味を示すことは、最も効果的な信頼構築の方法のひとつです。

報連相は「仕組み」で定着させる

「報告・連絡・相談」は日本のビジネス文化に特有の概念であり、ベトナムの職場にはこうした習慣が存在しないことも珍しくありません。そのため、「なぜ報告しないのか」と不満を感じる前に、報連相を自然に行える仕組みを整えることが重要です。

たとえば、毎日の業務終了時に簡単な日報をチャットツールで送るルールを設けたり、週に一度の短い面談の場を設けたりする方法が効果的でしょう。口頭での報告が苦手な場合は、テキストベースのコミュニケーションツールを活用するのもおすすめです。「やれ」と言うのではなく、「やりやすい環境」を整えてあげることが定着への近道になります。

ベトナム人社員の接し方④:トラブルになりやすい場面と対処法

どれだけ配慮していても、文化の違いからトラブルが生じることはあります。ここでは、日本の職場で特に起こりやすい場面とその対処法について解説します。

「謝らない」のは文化の違いであって悪意ではない

ベトナム人社員が「すみません」と言わないことに戸惑う日本人は多いです。ベトナムではミスに対して理由の説明を先にする傾向があり、これは謝罪がメンツに関わる重大な行為と捉えられているからです。詳しい背景は「 謝らない国ランキング|世界の謝罪文化の違いとベトナム人との上手な付き合い方 」の記事でも解説しています。

そのため、謝罪がないことに対して「反省していない」と決めつけるのは避けたほうがいいでしょう。大切なのは、謝罪の有無よりも、問題が再発しないための具体的な対策を一緒に考えることです。「次はどうすればうまくいくかな」という未来志向の会話が、ベトナム人社員には響きやすいと言われています。

給与・待遇の話題にはオープンに向き合う

ベトナムでは、同僚同士で給与の額を共有することに抵抗が少ない傾向があり、待遇に関する情報が職場内で広まりやすいと言われています。日本企業では給与は個人情報として扱われるのが一般的ですが、この感覚の違いがトラブルの原因になることも少なくありません。

「なぜ自分のほうが給料が低いのか」「同じ仕事なのに待遇が違う」といった不満が出た場合は、感情的にならず、評価基準や昇給の仕組みについて丁寧に説明することが重要です。曖昧にしたまま放置すると、不信感が募って退職につながる可能性もあるでしょう。透明性のある説明が、信頼関係を維持するうえで欠かせません。

退職の兆候を早期にキャッチするポイント

ベトナム人社員の退職は、日本人社員と比べて突然に感じられることが多いでしょう。しかしながら、事前にいくつかの兆候が見られることも珍しくありません。遅刻や欠勤が増える、同僚との会話が減る、仕事への積極性が薄れるといった変化は、退職を検討しているサインである可能性があります。

加えて、ベトナム人同士のコミュニティで転職情報が共有されることも多く、一人の退職が連鎖的に広がるケースも見られます。定期的な面談の場を設け、仕事の悩みや将来のキャリアについて話を聞く機会をつくっておくと安心です。問題が小さいうちに対処することで、突然の退職を防ぎやすくなるでしょう。ベトナム人の SNS活用の実態 を理解しておくと、コミュニティでの情報共有の仕組みも把握しやすくなります。

まとめ

ベトナム人社員との接し方で最も大切なのは、「メンツを重んじる」「上下関係を大切にする」「人間関係の距離が近い」という文化的価値観を理解し、日々のコミュニケーションに反映させることです。人前での叱責を避け、具体的な指示を出し、感謝の言葉をこまめに伝える。こうした小さな積み重ねが、ベトナム人社員の安心感と信頼感につながります。

文化の違いは、最初こそ戸惑いの原因になるかもしれません。しかしながら、その違いの背景にある理由を知り、お互いに歩み寄る姿勢を持つことで、職場はより豊かなものになるでしょう。ベトナム人社員の強みを活かしながら、共に成長できる職場づくりを目指していくことをおすすめします。

採用に進む前に確認したい実務ポイント

文化・宗教・価値観を理解したあとは、採用条件と費用設計も早めに確認しておくとスムーズです。

特定技能で採用する場合は 採用手順 受け入れ費用 を確認し、支援を外部委託する場合は 登録支援機関の選び方 も比較しておきましょう。

この記事を書いた人

ヤマシタハヤト

ヤマシタハヤト

ユアブライト株式会社 取締役 / 登録支援機関 実務責任者。特定技能・外国人材採用・登録支援・在留資格実務を専門領域とし、登録支援機関であるユアブライト株式会社の取締役として、外国人材紹介と受入れ支援の実務に関わっています。

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