フィリピン人は在日外国人労働者のなかでも第3位に位置しており、英語力やホスピタリティ精神から採用を検討する日本企業が増えています。しかしながら、「陽気でフレンドリー」というイメージだけで受け入れを進めると、家族観や宗教、プライドに対する感覚の違いに戸惑うことも少なくありません。フィリピン人の行動原理には独自の文化的背景が深く関わっており、それを知っているかどうかで職場の関係性は大きく変わるでしょう。そこで、フィリピン人の性格・国民性に見られる特徴から、採用後の接し方やマネジメントのコツまでを解説します。

フィリピン人の特徴①:性格・国民性に見られる代表的な特徴

フィリピンは7,000以上の島々からなる多民族国家であり、スペインやアメリカの統治の歴史が国民性に影響を与えています。ここでは、職場での関係構築に関わりの深い特徴を取り上げます。

陽気さの裏にある「パキキサマ」の価値観

フィリピン人と接して最初に感じるのは、その明るさと人懐っこさでしょう。初対面であっても笑顔で気さくに話しかけてくることが多く、職場の雰囲気を和らげる存在になることも珍しくありません。この陽気さの背景には、フィリピン社会に根づいた「Pakikisama(パキキサマ)」という価値観があります。これは「周囲との調和を大切にする」という意味を持ち、集団のなかで良好な人間関係を保つことを重視する考え方です。

一方、この社交性の高さは「深刻な問題を抱えていても表情に出さない」という面にもつながります。困りごとがあっても笑顔のまま過ごしてしまうケースがあるため、管理者は定期的に個別面談の場を設けて本音を引き出す工夫をすることが大切です。

「バヤニハン精神」が職場の助け合いに表れる

フィリピンには「Bayanihan(バヤニハン)」と呼ばれる相互扶助の精神があります。もともとは近隣住民が協力して伝統家屋を持ち上げて移動させる慣習から生まれた言葉で、困っている人がいれば自然と手を差し伸べるという国民性を象徴しています。

そのため、職場でも同僚が困っていれば自分の仕事を後回しにしてでも手伝おうとする傾向があります。日本企業では「まず自分の担当業務を完了させる」という考え方が一般的ですが、フィリピン人にとっては仲間を助けることも立派な仕事の一部と考えていいでしょう。この助け合いの精神をチーム全体の強みとして活かす視点を持つと、組織の結束力が高まるかもしれません。

家族が最優先という価値観は揺るがない

フィリピン人にとって、家族は人生における最も重要な存在です。フィリピンでは「OFW(Overseas Filipino Workers)」と呼ばれる海外出稼ぎ労働者が約1,000万人存在しており、母国の家族に仕送りをするために海外で働くという選択は社会的にも尊重されています。フィリピンの海外労働者送り出しの背景については「出稼ぎ大国フィリピンの海外労働者送り出し事情」の記事でも紹介しています。

しかしながら、この家族優先の価値観は日本の職場で誤解を生むこともあります。たとえば、家族の急病や行事を理由に突然休暇を申し出るケースがあり、日本の職場慣行に慣れた管理者は対応に困るかもしれません。とはいえ、これは怠慢や無責任とは根本的に異なり、フィリピン社会では当然とされる行動だからです。家族に関する休暇の取得ルールを事前に明確にしておくと、双方にとって安心できる職場環境が整うでしょう。

フィリピン人の特徴②:日本の職場で知っておくべき仕事観

フィリピン人材を受け入れるうえで、文化的な性格の理解と同じくらい重要なのが仕事に対する考え方の違いを把握することです。ここでは、日本の職場で特にギャップが生じやすいポイントを整理します。

英語力への過信が「日本語の壁」を見落とす

フィリピンでは英語が公用語の一つであり、多くのフィリピン人がビジネスレベルの英語を話すことができます。そのため、日本企業側が「英語が通じるなら意思疎通は問題ない」と判断してしまうことも少なくありません。

しかしながら、日本の職場で日常的に使われるのは日本語です。英語力が高くても日本語の理解が追いつかず、孤立感を抱えてしまうことがあります。加えて、フィリピン人は周囲に迷惑をかけまいとする傾向があるため、言葉の問題を自ら申告しにくいという側面もあるでしょう。業務マニュアルを英語と日本語の併記にするなど、言語面でのサポート体制を構築することをおすすめします。

「Sir/Ma'am文化」は敬意であり服従ではない

フィリピンの職場では、上司や年長者に対して「Sir」「Ma'am」と敬称をつけて呼ぶ習慣が根づいています。これはスペインやアメリカの統治時代に形成された文化であり、目上の人への敬意を示す自然な振る舞いという点です。

一方、この丁寧な態度を「従順で何でも言うことを聞く」と解釈してしまうと、大きな誤解が生まれるでしょう。フィリピン人は敬意を示しながらも自分の考えをしっかり持っていることが多いです。指示を一方的に押しつけるのではなく、意見を聞く姿勢を見せることで信頼関係を築けるはずです。

「フィリピンタイム」は仕組みで解決する

「Filipino Time(フィリピンタイム)」という言葉を耳にしたことがある方もいるかもしれません。これはフィリピンにおける時間に対するおおらかな感覚を指す表現で、約束の時間に多少遅れることが社会的に許容される文化的背景があります。

もちろん、日本の職場では時間厳守が求められるため、このギャップは放置できません。ただし、「時間を守れない人」と個人の資質の問題として責めるのは逆効果になることがあります。始業前の準備時間を設けたりリマインダーの仕組みを導入したりするなど、環境面から対策を講じるほうが建設的でしょう。文化の違いを前提とした仕組みづくりが、双方のストレスを軽減することにつながります。

フィリピン人の特徴③:プライドと「Hiya(恥)」の文化を理解する

フィリピン人の行動原理を理解するうえで欠かせないのが、「Hiya(ヒヤ)」という概念です。これはタガログ語で「恥」や「面目」を意味し、日本語の「恥」に近い感覚でありながら、その影響範囲はより広いと言われています。職場でのコミュニケーションにおいて、この文化的感覚を理解しているかどうかで関係の質が大きく変わるでしょう。

人前での叱責は信頼関係を一瞬で壊す

フィリピン人にとって、人前で叱られることは単なる注意ではなく、自分の尊厳を深く傷つけられる経験として受け止められます。Hiyaの文化においては、他者の面前で恥をかかされることは最も避けるべき事態の一つだからです。

そのため、業務上の指導やフィードバックは必ず個別の場で行うことが大切です。日本では朝礼やミーティングの場で改善点を共有することが一般的ですが、フィリピン人スタッフに対しては深刻な逆効果を招くことがあります。「あの人は自分の顔を潰した」と感じた瞬間に、それまで築いてきた信頼関係が崩れてしまう可能性も否定できません。

自尊心の尊重がモチベーションを引き出す

Hiyaの文化は、裏を返せば「自尊心を大切にされると強いモチベーションを発揮する」という側面も持っています。フィリピン人は褒められることに対して素直に喜びを感じ、その期待に応えようと努力する傾向があります。

つまり、改善点を伝える際には「ここは良くできている。さらにこの点を工夫するともっと良くなる」というように、肯定から入る伝え方が効果的です。また、小さな成果であっても周囲の前で称賛してあげると、本人のやる気が大きく向上するでしょう。Hiyaの概念を理解したうえでフィードバックの方法を調整することが、フィリピン人スタッフの成長を後押しする鍵になります。

フィリピン人の特徴④:採用・定着率を高める接し方のコツ

フィリピン人材の能力を最大限に引き出し、長く働いてもらうためには、文化的背景を踏まえた職場環境の整備が欠かせません。ここでは、実務的にすぐ取り入れられるポイントを紹介します。

宗教行事への配慮を制度に組み込む

フィリピンは国民の約80〜83%がカトリック教徒とされる、アジア有数のキリスト教国です。クリスマスやイースター(復活祭)、諸聖人の日(All Saints' Day)などの宗教行事は、家族と過ごす大切な時間として非常に重要視されています。特にクリスマスシーズンは9月頃から始まるとも言われ、12月には帰国を希望するスタッフが増えることも珍しくありません。

こうした事情を理解せずに「繁忙期だから休めない」と一律に対応してしまうと、不満が蓄積して離職につながるリスクが生じるでしょう。年間の宗教行事カレンダーを共有し、休暇取得のルールを事前に取り決めておくと安心です。

「仕送り」前提の給与設計を検討する

先述のとおり、フィリピン人の多くは母国の家族への仕送りを主要な目的として海外で働いています。そのため、手取り額や送金手段の利便性は就労先を選ぶうえで極めて重要な判断基準となるでしょう。

給与の支払いタイミングをフィリピンの慣行に合わせて月2回に設定したり、海外送金に対応した福利厚生サービスを案内したりすることで、生活面での安心感を提供できます。賞与や昇給の基準を明確に伝えることも定着率の向上に効果的でしょう。「頑張れば収入が増える」という見通しが立つことで仕事への意欲が高まるという傾向があります。

カラオケ好きを活かした職場コミュニティづくり

フィリピン人は歌や音楽、イベントを楽しむ文化を持っており、カラオケは国民的な娯楽の一つとして広く親しまれています。職場の懇親会や季節のイベントにこうした要素を取り入れると、フィリピン人スタッフが自然と打ち解けやすくなるでしょう。

一方、日本の職場では飲み会が交流の中心になりがちですが、フィリピン人のなかにはカトリックの信仰から飲酒を控える方もいます。そのため、アルコールに頼らない交流の場を企画することが、より多くのスタッフが参加しやすい環境づくりにつながります。食事会やスポーツイベント、カラオケ大会など、多様な選択肢を用意しておくことをおすすめします。外国人社員が戸惑いやすい日本の職場ルール全般については「外国人社員が『意味がわからない』と絶句する日本の職場ルール10選」の記事でも解説しています。

まとめ

フィリピン人の「陽気でフレンドリー」な性格は、バヤニハン精神やPakikisamaの価値観、そしてHiyaの文化によって支えられています。表面的な印象だけで接するのではなく、家族を大切にする価値観や自尊心を重んじる感覚、宗教的な慣習といった文化的背景を理解することが信頼関係の第一歩となるでしょう。

職場では、人前での叱責を避けること、宗教行事や仕送りへの配慮を制度に反映させること、英語力に甘えず日本語のサポート体制を整えることが定着率の向上につながります。互いの文化を尊重し合える職場づくりが、最高のチームを生み出す土台になるはずです。

この記事を書いた人

ヤマシタハヤト

ヤマシタハヤト

ユアブライト株式会社 取締役 / 登録支援機関 実務責任者。特定技能・外国人材採用・登録支援・在留資格実務を専門領域とし、登録支援機関であるユアブライト株式会社の取締役として、外国人材紹介と受入れ支援の実務に関わっています。

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