ベトナム人材の採用が進む製造・建設・介護・飲食業において、いま多くの企業が直面しているのが「テト(Tết Nguyên Đán)」をめぐる休暇調整の問題です。テトはベトナム最大の祝日であり、日本でいう正月・お盆・家族の大きな行事をすべて合わせたほどの意味を持ちます。しかし日本の就業規則や年間カレンダーには本来組み込まれておらず、現場では「有給を何日まで認めるか」「帰国を希望されたらどう対応するか」という判断を、担当者が場当たり的に行っているケースが少なくありません。

この記事では、テトの文化的背景から具体的な労務対応、定着率改善のための職場配慮まで、HR担当者・経営層が知るべき実務知識を体系的に解説します。外国人材の採用・定着を支援する立場から、現場で実際に聞かれる相談内容と、それに対する具体的な回答を盛り込みました。

テトとは何か:ベトナム人材が職場に持ち込む「最大の節目」

テト(Tết Nguyên Đán)は旧暦の正月を指し、毎年1月下旬から2月上旬ごろに訪れます。2026年のテトは2月17日、2027年は1月29日に元旦を迎えます。ベトナム政府は例年、テト前後を含む7〜9日間を国民の祝日として定めており、国内では帰省・先祖供養・一家団欒が集中する時期です。

テトが日本の正月以上に重要とされる背景には、儒教的な家族観・先祖崇拝の文化があります。先祖の祭壇に花や料理を供えること、家族全員が顔を合わせること、旧年の「悪いもの」を払って新年を清潔に迎えること,, これらは宗教的な意味合いも含む慣習であり、特定技能・技能実習・高度人材を問わず、ベトナム出身者の多くが強く意識しています。

単なる「連休の希望」ではなく、家族や故郷との絆を維持するために欠かせない節目として捉えることが、適切な職場配慮の出発点です。帰国を希望する従業員にとって、テト期間中に有給を取得できるかどうかは、その企業で長く働き続けるかどうかの判断基準にもなりえます。

テトの時期と日本の職場への実務影響

テトが日本企業の職場に与える影響は、主に三つのタイミングで現れます。

第一は「帰国申請の集中」です。12月から1月にかけて、ベトナム人材から一斉に帰省・帰国の相談が寄せられます。製造ラインや介護シフトで複数名が同じ時期に休暇を申請した場合、業務が回らなくなるリスクがあります。

第二は「テト前後の集中離職」です。これは現場で繰り返し確認されているパターンで、テトを機に「環境を変えたい」と考えるベトナム人材が退職・転職を検討するケースが増えます。テトを楽しく過ごせた従業員はモチベーションが回復しやすく、配慮が不十分だった職場は帰国後に戻ってこないリスクがあります。

第三は「コミュニケーション負荷の増大」です。帰国する場合は航空券の手配・再入国許可の確認が必要で、日本在留のまま過ごす場合でも、ベトナム本国の家族と時差を超えてやり取りする時間がどうしても増えます。この時期の有給取得申請や業務調整を円滑に処理できるフローが整備されていない職場では、上司・従業員双方にストレスが蓄積します。

外国人材採用の全体像については 外国人採用の基礎知識:採用フローと留意点 も参照してください。

現場でよくある相談:テト休暇をめぐるHRの悩み

現場でよくある相談を整理すると、以下のようなパターンに分類できます。

「何日まで有給を認めればいいですか?」

最も多い相談です。答えは「法律が決めるのではなく、会社が労働者と合意する」です。厚生労働省の定める労働基準法上、有給休暇(年次有給休暇)は労働者の権利であり、取得日の指定は原則として労働者側にあります(労基法第39条)。テトを理由とした申請を一方的に拒否することは、時季変更権の行使が認められる「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当しない限り困難です。e-Govの労働基準法全文(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049)でも確認できますが、実務上は「何日分の有給残高があるか」と「業務上のカバー体制をどう組むか」の二点を事前に整理することが重要です。

「帰国中の再入国許可はどうすればいいですか?」

特定技能・技能実習など就労系在留資格を持つベトナム人材が30日を超えて出国する場合、再入国許可または「みなし再入国許可」の対象外になるリスクがあります。出入国在留管理庁の案内によれば、有効な在留資格を持つ外国人が出国から1年以内に再入国する場合は「みなし再入国許可」が適用されますが、在留期限が出国中に切れる場合は事前に手続きが必要です。出入国在留管理庁(https://www.moj.go.jp/isa/index.html)の最新情報を必ず確認し、担当者が従業員に説明できる体制を整えてください。

「日本在留のままテトを過ごす従業員にはどう対応しますか?」

帰国できないベトナム人材への配慮も重要です。テト当日または前後に有給取得を認める・社内でベトナム料理を囲む機会を設ける・ベトナム向け国際電話の時間を配慮する,, といった対応が、職場のエンゲージメントに直接影響します。ミャンマー人材への文化的配慮について解説した 職場コミュニケーションにおける文化的背景の理解 も参考になります。

失敗パターンと回避策:配慮の欠如が引き起こすリスク

失敗パターンと回避策を具体的に見ていきます。

失敗パターン①:「日本の祝日しか認めない」と明言してしまう

就業規則に「祝日は日本の国民の祝日に限る」と記載している企業が、ベトナム人材からの有給申請を「テトは日本の祝日ではない」という理由で却下しようとするケースがあります。しかし有給休暇の申請理由を問うことは法的に難しく、このような対応は従業員の信頼を一気に失います。回避策は、就業規則の年次有給休暇条項に「取得理由は問わない」と明記し、テト期間の希望取得を受け付ける窓口・期限を年間スケジュールに組み込むことです。

失敗パターン②:複数名が同時申請して業務が止まる

テトの直前になって複数のベトナム人材が一斉に休暇申請を提出し、現場が混乱するパターンです。回避策は「テト期間の有給申請受付を11月末までに締め切る」というルールを事前周知することです。ハローワークへの外国人雇用状況届出(厚生労働省が義務付けている外国人雇用状況の届出制度)を適正に管理している企業であれば、在籍するベトナム人材の人数を把握しており、シフト計画も立てやすくなります。

失敗パターン③:帰国後に戻ってこない

テト帰国後に連絡が取れなくなる、または退職届がメッセージアプリで届く,, これは定着支援が不十分な職場でよく起きます。回避策は、テト前に上司または支援担当者がベトナム語または通訳を介して個別面談を行い、「帰ってきてほしい」「次の目標はこうだ」と明確に伝えることです。帰国前後のフォローアップを面談記録として残すことで、問題の早期発見にもつながります。

失敗パターン④:在留資格の期限切れを見落とす

帰国中に在留期限が切れた場合、そのまま再入国できなくなります。企業側が「自己管理」として放置した結果、復帰不能になったケースが実際に報告されています。在留期限は出入国在留管理庁のシステムで確認でき、採用担当者が在留カードのコピーを保管して期限管理することが求められます。高度外国人材の在留資格については 高度外国人材の在留資格解説 も参照してください。

採用担当者が見落としやすいポイント

採用担当者が見落としやすいポイントとして、以下の三点を挙げます。

テトは「一日」ではなく「期間」である

テト元旦だけでなく、前後合わせて7〜10日間が「テト期間」として意識されています。元旦の一日だけ有給を認めても、帰省には往復の移動を含めた日数が必要であり、実態とずれが生じます。「テト期間に最大○日間の有給申請を優先受付する」という運用ルールを設ける企業は、従業員からの評価が高い傾向にあります。

テトの準備は12月から始まっている

ベトナムでは旧正月前の数週間を「テト前」として、特別な買い物・大掃除・故郷への仕送りを行う文化があります。12月下旬から1月にかけて、従業員の精神的な関心がテトに向かっていることを前提にした声かけができると、コミュニケーションが格段に改善します。

日本在留者にとって「帰れないテト」はダメージが大きい

家族と離れて異国で働くベトナム人材にとって、テトに帰省できないことは精神的に大きな負担です。このことを理解せずに「日本の祝日以外は特別扱いしない」という姿勢を示すと、従業員の帰属意識が急速に低下します。文化的背景に対する敬意が、長期的な定着率に直結する判断基準です。

テト休暇の制度化:判断基準と運用設計

テト休暇への対応を「個人の事情への例外対応」から「組織としての制度」に昇華することが、多国籍職場の安定運営に欠かせません。以下に判断基準を整理します。

年間有給取得計画への組み込み

厚生労働省は年5日の有給休暇取得義務を労働基準法で定めており(2019年改正)、この義務を果たす観点からも、テト期間の計画的有給取得を会社側から促すことは合理的です。「テト申請受付期間:毎年11月1日〜30日」「取得上限日数:連続5日まで(残高の範囲内)」といった社内ルールを就業規則の附則または別途規程として整備することを検討してください。

無給休暇・特別休暇の選択肢

有給残高が不足している従業員には、無給の特別休暇(無給欠勤)を認めるかどうかの判断基準を設けておく必要があります。「入社1年未満で有給残高ゼロの場合、テト期間に限り最大3日の無給休暇を認める」という規定を持つ企業は、ベトナム人材の採用競争力が高まっています。一方、無給欠勤の許可が曖昧なまま運用されると、他の従業員との公平性問題が生じるため、規程化が重要です。

支援担当者・通訳者の配置

テト期間前後の調整を円滑に行うには、ベトナム語対応できる支援担当者または通訳者の存在が不可欠です。社内に不在の場合は、登録支援機関や外部の人材支援会社と連携することを検討してください。 外国人材のミカタへのお問い合わせ では、ベトナム人材の採用・定着支援に関するご相談を受け付けています。

図解:採用前確認フロー(テト対応版)

以下は、ベトナム人材を採用する際のテト対応確認フローです。採用内定から初回テト前までのステップを段階的に整理しています。

ステップ1:採用内定時の初期確認

  • 雇用開始月と最初のテト時期を確認する
  • 在留カードの有効期限がテト後も有効か確認する
  • 帰国希望の有無を入社前面談で確認し記録する

ステップ2:入社後・12月上旬までの準備

  • テト期間の有給申請受付ルールを日本語・ベトナム語で周知する
  • シフト管理者にベトナム人材の申請予定を共有する
  • 有給残高を本人に確認させ、不足の場合の対応方針を説明する

ステップ3:帰国する場合の在留手続き確認(12月中)

  • 在留期限が帰国期間中に切れないか確認する
  • 「みなし再入国許可」の条件(1年以内再入国)に該当するか確認する
  • 条件に該当しない場合は出入国在留管理庁の窓口への事前申請を促す

ステップ4:テト前の個別面談(1月上旬)

  • 帰国・在留の意思と帰社日を再確認する
  • 次のキャリア目標について一言触れ、帰社後の動機付けを行う
  • 緊急連絡先(本国・日本の双方)を確認する

ステップ5:テト後のフォローアップ(帰社後1週間以内)

  • 帰社当日または翌日に短い面談を実施する
  • テトの報告を聞き、職場の人間関係をリセットするきっかけにする
  • 課題や不満があれば早期に把握し、次のテートサイクル前に対処する

よくある質問(FAQ)

Q1:テトは日本の法律上、休日として認められますか?

日本の労働基準法や祝日法には「テト」という概念はありません。テト当日は日本の通常営業日です。ただし、年次有給休暇の取得は労働者の権利であり、テトを理由とした申請も有給として処理することは可能です。企業として特別な「文化配慮休暇」を就業規則に定めることも妨げられていません。

Q2:有給が余った場合、テトに合わせて取得させることはできますか?

はい。むしろ厚生労働省が推進する年5日の有給取得義務を果たす観点からも、計画的にテト期間を有給として申請させることは推奨されます。ただし会社側が一方的に日程を指定する「計画付与」には就業規則の定めと労使協定が必要です。

Q3:帰国中に在留期限が切れてしまった場合、どうなりますか?

在留資格が失効した状態での再入国は原則として認められません。この場合、ビザを取り直す手続きが必要となり、復職まで数か月かかるケースもあります。採用担当者は在留カードの有効期限を必ず事前に確認し、期限切れが見込まれる場合は出入国在留管理庁への相談を促してください。

Q4:テトに関する配慮をしないと、採用に影響しますか?

実態として影響します。ベトナム人材のコミュニティはSNSや口コミで情報共有が活発であり、「テトに配慮してくれる職場」かどうかは採用候補者に伝わります。同等条件の求人があれば、文化的配慮が手厚い企業が選ばれる傾向があります。

Q5:テト以外にも配慮すべきベトナムの行事はありますか?

テトのほかに、清明節(4月初旬)・お盆(旧暦7月15日)・建国記念日(9月2日)などが重要な節目です。ただし、これらはテトほど帰国を伴う大型行事ではなく、SNSでの家族連絡や個人的な礼拝程度で対応することがほとんどです。職場として特別な対応が求められる頻度はテトが最も高いと考えて差し支えありません。

実務チェックリスト:年間テト対応スケジュール

以下の実務チェックリストを参考に、年間の対応を整備してください。

10月〜11月の対応

  • 来年のテト日程を確認する(旧暦基準で毎年変動)
  • ベトナム人在籍者の有給残高を集計する
  • テト期間の有給申請受付方法を社内通知する
  • シフト管理者・管理職へのテト対応研修を実施する

12月の対応

  • テト有給申請を締め切り、承認・調整を完了する
  • 帰国希望者の在留カード有効期限を確認する
  • 必要に応じて出入国在留管理庁の手続きを案内する
  • 日本在留のベトナム人材向けのテト交流イベントを企画する

1月(テト前)の対応

  • 全帰国予定者の帰社日を確認・記録する
  • 支援担当者・緊急連絡先リストを整備する
  • 現場シフトのバックアップ体制を確認する
  • 餞別・テトのお祝いメッセージなど簡単な配慮を実施する

テト後の対応

  • 全員の帰社状況を確認する
  • 帰社後面談を1週間以内に実施する
  • 当該年度のテト対応の課題を記録し、翌年の改善計画を立てる

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ベトナム人材の定着は「採用してからが本番」であり、テトへの対応はその最大の試験台の一つです。法律上の義務を果たすことに加えて、文化的な背景への敬意と実務的な段取りを組み合わせることで、職場への帰属意識は大きく変わります。採用・定着支援の具体的なご相談は、 外国人材のミカタ(YourBright)のお問い合わせ窓口 からお気軽にどうぞ。

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この記事を書いた人

ヤマシタハヤト

ヤマシタハヤト

ユアブライト株式会社 取締役 / 登録支援機関 実務責任者。特定技能・外国人材採用・登録支援・在留資格実務を専門領域とし、登録支援機関であるユアブライト株式会社の取締役として、外国人材紹介と受入れ支援の実務に関わっています。

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